剱沢幻視行 山恋いの記

書籍紹介

「和田城志」という名前は服部文祥氏の著書「サバイバル登山家」で知ったのが最初。冬の十字峡をパンツ一丁で渡渉し雪崩の氷壁を攀じ登る山行は強烈豪快で名前が頭に焼き付き雑誌の広告を見て迷わず本書を購入した。

1949年生まれ。国内外で開拓した山行報告が岳人に長期連載されるなど日本を代表する登山家であった。1986年12月の滑落事故で致命的な負傷を負うが1999年まで冬の黒部を続けている。山行報告に散りばめられている独自の思想も興味深い。文章表現も繊細で臨場感があり読み応えのある一冊である。

1986年6~8月ナンガ・パルバット(8125m)
『この山の雪崩は本当に凄まじい。落差四千メートルの雪崩を想像出来るだろうか。入道雲のような雪煙を巻き上げ落ちてくる姿は、この世のものとは思われない迫力だった。尾根筋、壁を問わず、至る所に雪崩の危険性があった。2ヶ月以上もこの壁にへばりついて、雪崩の洗礼を幾度も受けた。恐怖を通り越して笑うしかない。
観察も対処もいろいろと手を尽くしたが、雪崩に対しては無力だった。正しい答えは、登らなければいいのだ。死んだからといって、自分の能力を悔やむ必要がないように、生き延びたからといって、自分を過信してはいけない。この登山は喜劇だった。私は全身全霊で山に怯え、畏敬の念さえ抱いた。こんなに長く山に登ってきて、何度も雪崩に会いながら命を拾ってきた私でさえ、この山の雪崩と出会うまで、雪崩の本当の姿は知らなかったと言えるかもしれない』

購読日 2014年8月
おすすめ度 ★★★★★

剱沢幻視行  山恋いの記
剱沢幻視行 山恋いの記

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和田 城志
東京新聞出版局
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